技術紹介

技術の背景

核酸医薬

低分子医薬、抗体医薬に続く、新しい医薬品モダリティーとしての核酸医薬の実用化が実現してきました。これまで治療薬のなかった遺伝病に対する画期的な治療薬として、多くの患者さんおよびご家族の希望となっています。さらに、多くの疾患の治療薬の開発が望まれています。

体内動態および体内分布の把握技術の重要性

核酸医薬の治療効果を高めるため、全身投与量を増加させると、治療目的の臓器以外にも高濃度の核酸医薬が分布し、副作用の原因となります。従って、核酸医薬が目的臓器に到達した体内分布を把握しながら投与する必要があります。さらに分布した核酸医薬の目的臓器に分布する持続時間を把握することも重要です。核酸医薬の体内動態と分布は実験動物と患者さんとでは違いますので、臨床試験においては患者さんの体内動態の把握は極めて重要です。

ラジオアイソトープ標識体による核酸医薬の体内動態把握

18F-FDG によるヒト全身PETイメージング診断は、がん診断に欠かせない診断技術になっています。ラジオアイソトープで標識された医薬品は体外から医薬品の分布を把握するために広く用いられていますが、核酸医薬ではその利点が活用されていません。九州大学の佐々木茂貴教授らは核酸の所望の位置をラジオアイソトープを含め様々な官能基で化学修飾できる画期的な技術を開発しました。この技術によってラジオアイソトープで標識化された核酸医薬を用いると体内動態と分布をイメージングにより定量的に把握することが可能になります。この技術を活用することで、核酸医薬と薬物送達システムの臨床実用化は大きく加速するものと期待しています。

技術の概要

修飾反応の基礎

人工核酸は標的核酸と相補的な配列で、修飾する核酸部位に対合する部位に官能基をもつ構造になっています。人工核酸の官能基は標的核酸との2本鎖形成をきっかけとして標的部位に転移します。この転移官能基にはさまざまな分子を搭載できますが、ラジオアイソトープで標識化したものを用いると、標的核酸の特定部位がラジオアイソトープで標識された構造になります。本技術では、特定の部位にあるグアノシン、アデノシン、シトシンを塩基選択的にラジオアイソトープで標識化することが可能です。

反応スキーム

本技術はつぎのスキームで核酸を標識化します。

  1. 1)標識対象の核酸に相補的な塩基配列の人工核酸を設計する。
  2. 2)適切な転移基を人工核酸に導入し官能基転移人工核酸を合成する。
  3. 3)標識対象の核酸に官能基転移人工核酸を混合すると、ハイブリダイゼーションと同時に官能基が転移し、標的核酸が化学修飾される。
  4. 4)ラジオアイソトープ標識化転移基をもちいて核酸のラジオアイソトープで標識化が達成される。
  5. 5)標識化されてない転移基では、引き続きラジオアイソトープによる標識化反応を行う。

特徴・利点

本技術はつぎのような特徴および利点があります。

  1. 1)核酸の所望の位置に所望の官能基を導入できる。
  2. 2)化学修飾核酸などすでに合成済みの核酸もラジオアイソトープ標識化できます。
  3. 3)mRNAなど長鎖核酸の所望の位置を標識化できる。
  4. 4)1Hや14Cなどの長半減期のラジオアイソトープに止まらず、11C, 18F, 123I, 124Iなど短半減期の核種でも標識化できます。

ラジオアイソトープ標識によって可能になる核酸医薬動態解析

核酸医薬の動態把握

蛍光標識体は蛍光の組織透過性が低いことや、検出感度の点で核酸医薬のヒト体内動態の把握には使用することができません。

ラジオアイソトープ標識位置の違う核酸を用いるとそれぞれの体内動態および分布を把握することが可能になる。その情報を統合することによって核酸医薬分解や全体の体内動態を把握することが可能になります。

siRNAの動態把握

siRNAは細胞内で代謝活性化を受けるプロセスではセンス鎖とアンチセンス鎖は違う経路をとる。活性化RISC中のアンチセンス鎖はセンス鎖よりも長い細胞内滞留性を示します。

センス鎖およびアンチセンス鎖の内部配列をラジオアイソトープ標識化することにより、より正確な動態把握が可能になります。

参考文献

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